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Volume 2. サンゴは移植 (だけ)じゃ守れない!?

更新日:2022年3月14日

サンゴ礁の保全においてよく聞かれる活動といえば「サンゴの移植活動」です。

これには様々な方法がありますが、多くの場合、自然のサンゴの一部を取り、別の場所に植えてクローンとして増殖させ数を増やすというものです。サンゴというのは、もともと小さな一つ一つの個体が集まって出来ているのですが、その一部(いわゆるクローンです)を切り取って植えるとそこから成長していくのです。

そのほかに、一年に一度産卵もして、他のサンゴと有性生殖をして増えることもできる、本当にすごい生存戦略をもった生物なんです。



結果が目に見えやすく、ダイビングをしながらみんなで移植活動をするのは楽しい活動です。海に入ってみんなで作業をすると、”いいことをした!”という満足感も得られます。化粧品会社や大手の商社などが「サンゴ礁保全に貢献しています」と企業貢献活動(CSR)にもよく利用しています。



でも、ちょっと考えてみれば、もともとサンゴが減少している環境に同じサンゴを植えても、長期的な運命は元のサンゴと同じであることは明らか。高水温になれば死んでいってしまうので根本的な問題は消えていません。

もちろん、環境教育や啓発のきっかけとしては意義があるのですが、これで根本的な問題解決ができるわけではないのです。


実際、サンゴは移植をしなくても波などで砕けて散らばり、生息域を拡げます。だから私たちが次の世代へもサンゴを残したいと思うのなら、そんなに進化した生存戦略を持っているサンゴの進化がついていけないほど急激な影響を与える人間の方を、規制しないといけないわけです。




石垣島では2016年と2019年に大規模な白化現象があり、環境省でもサンゴの移植活動が行われました。

しかし、”移植”とはいっても、その成功率は実はまだとても低かったり、その後の生存率も低いことがわかっています。


沖縄県がサンゴ礁の再生を目指して2011年から16年まで移植した2.7ヘクタールでは、その9割が死んでしまい、那覇空港新滑走路のために移植されたミドリイシサンゴは66〜90%が死んだと報告されました。(*1)


またサンゴ移植・養殖にはかなりの費用もかかり、それは行政プロジェクトでは億単位にのぼります。


(図)データ:環境省のサンゴ礁移植プロジェクト ( 沖縄県『サンゴ礁保全再生事業報告書」より2011-16年度の植え付け面積、第9回那覇空港滑走路増設事業環境監視委員会の配布資料) 大久保奈緒准教授の石垣島講演資料より


事業報告書を見ると、数々の”移植活動”も科学根拠をもってやっているというよりは、まだ実験・調査の意味合いが濃いものです。


微妙で複雑な環境のバランスの中で何万年も生きてきたサンゴのことを、人間はまだよくわかっていません。実は、サンゴは5億年前から地球上に存在し数々の進化を経ていまの地球上に存在する、人間より遥かに大先輩の存在であり、実は火山活動で酸性化している海域にも適応した種類がいるなど、人間にとっては神秘の存在なのです(*2)。


人間の技術で現在サンゴ礁生態系を再生することは出来ない、というのが悲しいけれど明白な事実です。


人間が必要とするサンゴを、ちゃんと次世代に残すということは、自然のサンゴが増え生きられる海の環境を維持できるように、人間からの急激な影響を規制することに他なりません。


じゃあ、移植もいいけれど、いま確実にわかっている、できることからやればいいのでは?

(Volume 2: 解決策は私たちの身近にある、へつづく)



参考:

  1. 環境省のサンゴ礁移植プロジェクト ( 沖縄県『サンゴ礁保全再生事業報告書」より2011-16年度の植え付け面積、第9回那覇空港滑走路増設事業環境監視委員会の配布資料)大久保奈緒准教授の石垣島講資料

  2. Gyoppy! 生物は弱いものしか進化しない」危機の時代に、人間がサンゴから学べること【後編】 Miratsuku, 2021, 04.12.


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