Volume 1. サンゴはなぜそんなに大切なの?
- sustainableislandi
- 2021年6月10日
- 読了時間: 5分
更新日:2021年8月11日
サンゴが分布しているのは海洋全体の たった0.2%ですが、海洋生物の 4 分の1がサンゴ礁生態系と関連し支え合っているので、サンゴの減少は他の生態系へ多大な影響を与えます。
サンゴ礁、藻場、マングローブ林、海岸湿地など沿岸の浅瀬には、海の生物多様性の実に80%が集中し、稚魚が生まれ育ち、他の大きな魚の生存や私たちの食料を支える場所なのです。そのため、サンゴ礁をはじめとするこれらの生態系は「海のゆりかご」と言われています。

上図:生態系ピラミッド:サンゴがなくなれば、生態系ピラミッドを構成する全ての生き物がだんだん支えを失っていく。
さんごは動物ですが、共生する褐虫藻という藻の光合成でCO2 を吸収し、酸素やサンゴ自身が生きるためのエネルギーをつくりだしています。なんとサンゴ礁や海藻のCO2の吸収率は1㎡辺り4.3kg/年で植物よりも多いのです。
実は、海は地球最大のCO2の貯蔵庫として地球の熱を9割も吸収して温暖化を緩和し、水温が上がる代わりに天候を安定させてくれています。もし海がなければ、地球の平均気温は50℃ (今は.14.4℃)になっている計算です。
よく聞かれるさんごの白化現象というのは、海水温が上がることでこの藻がサンゴと共生出来なくなりサンゴから出て行ってしまうことで、藻自体が持っていた色を失って白くなり、藻が作り出す栄養を受けることができず死滅する現象です。
この地球を安定化させる機能に加え、サンゴ礁が保有するまだ生物学者も把握しきれていないほど膨大な海の生物の多様性は、私たちに癌や難病の新薬となる物質を提供し人類の長寿を叶えてくれ、死骸は伝統的に建築材となって生活や文化を支えています。そのほか、沿岸では天然の防波堤となって津波や高波から私たちの暮らしを守り、色とりどりの景観が多くの文化や豊かさを支えるインスピレーションの源ともなります。
世界的には、日本最大のさんご礁海域である石西礁湖は、地球上で最も生物多様性の豊かな海域で重要な保全対象とされる、コーラル・トライアングルの三角形の先端をなしています。

「世界的サンゴ礁地域、漁業生産、食料問題に貢献するコーラル・トライ アングル・イニシアティブ(CTI)」というのは、海洋と沿岸の生物資源の宝庫である 海域を、政治的枠組みを越えてひとつの海域として連携し保全する多国間パートナーシップで、2007 年 12 月にインドネシア・バリ島で行われた気候変動条約第 13 回締約国会議で正式に承認されたものです。


CTIは日本の南西諸島周辺を頂点に、インドネシア(中央・東)、 東ティモール、フィリピン、マレーシア(ボルネオ島の一部)、PNG とソロモン諸島の全又 は一部の EEZ を含む、米国の半分の面積に相当する 570 万 km2 を占める三角形の 海域です。地球上で最も生物多様性の豊かな海域として、海のアマゾンとも呼 ばれているこの海域のサンゴの種類は 600 種以上に及び、世界で知られてい るサンゴの種の 75%以上、世界のサンゴ礁の 53%を含みます。また、3,000 種以上の魚類、世界中で最も広い面積のマングローブ林が広がっているとの調査結果が出されました。
周辺の 12 億人が沿岸資源に直接経済を依存して生活するなど、インドネシア、フィリピン、マレーシア等を含む経済開発が進む周辺国の持続的発展に直結し、世界の漁業生産を支える食糧供給の場 として重要と言われています。
こ の沿岸機能が正常に保たれれば、気候変動で増加する災害に対し自然の要塞となり、 美しい景色やビーチは、世界から観光客を呼ぶ観光業を支えます。
これらの総合的な生態系サービスを考えると、CTI 海域におけるさんご礁、マングローブ、その他の関連生態系の経済価値は約 US$23 億 と推定されました。また CTI は熱帯域に分布するマグ ロの産卵・育成場でもあり、世界一のマグロ産業の基盤を形成するといわれています。
ちなみに、日本では観光・レクリエーションのみのサンゴ礁の経済価値について、日本全体で2,399億円/年、沖縄県では2,324億円と試算されていますが、これは直接サンゴ礁を目的にした観光(ダイビング、海水浴など)と、沖縄・奄美・小笠原の限定された地域のみを計算対象とし、漁業や文化的価値などの生態系が供給するその他のサービス全体の価値を含みません。
このように、世界でも最も重要な海域の先端にあるのが、八重山諸島の石西礁湖であり、その豊かさがとてもよく理解できるでしょう。日本で最大のサンゴ礁海域であり、黒潮に乗って日本全体のサンゴ礁へ幼生を供給する源の場所とも言われています。
しかし、海洋汚染や気候変動の影響による海面上昇、海水の温度・酸性度の上昇により、 今後 10年間で世界の9割のサンゴ礁が死滅すると予測され、そのスピードは年々高まっています。
現に、WWFが2020年に出した報告書では、世界で人間の食卓に並ぶ大型の魚の90%が海から消えてしまい、日本の漁獲量も過去30年間で1/3に激減したと言われています。国内の水産資源は8割が資源の枯渇状態に近く、現在あたりまえに見かける魚介類や海藻が20年、30年後にはもうみられなくなるかもしれない、という悲惨な状況です。
また、過去50年間ですでに地球上から2/3の脊椎動物が姿を消し、地球の危機のトップマターとなるほど残り1/3の減少・絶滅のスピードも加速している状況です。信じられない様ですが、現在毎日50〜100種もの生き物たちが、地球上から消えているということです。
さらに、人間が無責任に作りだし海に散らばってしまったプラスチックゴミはすでに傷んで縮小した生物のすみかに新たな危機を追加し、ますます生き物を危うくしています。
これは脅しでも誇張でもなんでもなく、現に石垣島周辺に広がる石西礁湖では、すでに2018年の白化現象で90%のサンゴが死滅したと報告されています。
もし私たちが石垣島周辺の海域を守れなければ、観光や食料供給がままならず、水温上昇もコントロール不可能になる未来がすぐ先にやってきてもなんら不思議ではありません。
海のこの無限大の機能を正常に保つことは、島の社会・経済・環境をひっくるめた豊かさを守っていくことに欠かせないことなのです。
参考文献:
Roberts et al, 2002
WWF Living Planet Report 2020
Tamura, 2009. 生物多様性ホットスポット保全 プロジェクト形成における 国際協力事業との効果的連携 ~コーラル・トライアングル・イニシアティブ~