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生命は変化しながら続いていくー生きる命の百景色を撮らえ発信し続ける写真家・南條明

更新日:2023年9月7日

今回は、ホテルエメラルドアイル石垣島で開催された「サンゴ万年の願い 生命百景色 南條 明 写真展 ※1」の会場にお邪魔した。

※1 写真展は2023年7月30日に終了


海と山はつながっている

今朝はサトウキビ畑に行っていて…と汗を拭きながら登場した南條さん。

「島の魅力は海だけじゃなくて、素敵なところがたくさんあるので、海の中だけでなく、サトウキビ畑や、星空なども撮影しています。海と山はつながっているという感覚がすごく大事だなと思っています」

海と山はつながっている、すべてはつながっているというメッセージに、早くも心を掴まれた。



和太鼓の演奏家から写真家へ

実は南條さん、自他ともに認める「破天荒」な経歴の持ち主だ。18歳から、和太鼓の演奏家として世界中を飛び回った。世界25カ国、通算1500公演に出演。幼少期から自然や生きものが好きだった南條さんは、38歳のとき、ダイビングインストラクターに転身し、沖縄・那覇へ移住した。その後、サンゴの産卵やマンタの撮影をするため、2020年10月に石垣島に移住。そうして石垣島にやってきた南條さんが撮影したサンゴの産卵の写真が、展覧会会場に並んでいた。



©AKIRA NANJO


2022年5月の産卵だ。この年の産卵は、大規模だったという。月の周期と潮を見ながら、サンゴの産卵に条件があうタイミングで何度も海に出かけて、今か今かと固唾を飲んでその時を待った。ある夜ついに、ピンク色のバンドル※2 が少しずつ放出され始め、さらに呼応するようにたくさんのバンドルが広がっていく。「同調産卵」といって、他のサンゴも同調して一斉に産卵を始め、おそらく何十万か、それ以上かという大量のバンドルが宇宙のような海を漂う。

※2 バンドルとは、卵と精子が入ったカプセルのこと


「真っ暗な水中でライトをつけると、まるで星空のようです。その時、今までサンゴに感じていた静的なイメージは覆され、命が躍動している姿を目の当りにしました。このサンゴの一つひとつのバンドルはたったの3mmぐらいの大きさなのですが、産まれるときは沸き立つようで、水中にもこんな宇宙があるんだなと。植物のようにじっとしているように見えたサンゴのイメージが、ガラッと変わったんです」


石垣島北部・伊原間での定点撮影


南條さんの隣に写っているのは、石垣島北部の伊原間(いばるま)という地域で撮影された、大きなサンゴの写真。南條さんが両腕を広げたぐらいの大きさだったそうだ。一度写真を撮ったあと、なんだかこのサンゴに再度呼ばれたような気がして、一緒に潜っていたダイバーとともに戻り、さらに写真を撮った。


その後、南條さんはこのサンゴの定点撮影を継続することになる。2022年の夏、台風が9月まで来ず、海水温が下がらなかったことなどが原因で、八重山のサンゴは大規模白化に見舞われた。


異変は、6月下旬頃から始まっていた。リーフの外側から白化が始まった。水温が高い状態が続き、7月下旬から8月上旬にかけてたった2週間ほどで真っ白になっていた。


「水中で撮影をしていましたが、あまりにも全部のサンゴが白や蛍光色※3 なので、撮影を中断して海面に出て、一体どこまで続いているのか確認することにしました。すると、どこまでも真っ白なサンゴが続く光景が水面から見えたんです」

※3 蛍光色に変化するのも白化の兆候


©AKIRA NANJO


伊原間の大きなサンゴも、例外ではなかった。


「すぐに定点のあの大きなサンゴのところに行ったんですけど、明らかに姿が変わっていて、もう、泣きました。だけどここから目を背けるわけにはいかないと思いました。ただただ撮影を続けることしかできなかったです」


日毎に、時間毎に、白化のエリアが広がっていくのを目の当たりにした。ものすごいスピードでサンゴが白化していったのだ。


「実は、2022年の伊原間でのミドリイシ属の産卵は、例年にないほどの大規模な同調産卵で、少し様子が違うのでは?という声があったんです。もしかしたら何かしらの環境の変化を察知して生命の危機を感じていたのかもしれません」


©AKIRA NANJO


生命は変化する

白化現象を目の当たりにしてから、ショックのあまり気持ちが沈んでいた。白化したサンゴの画像を出すことにはかなり躊躇して、この現状を伝えることは大切だが、ショッキングな映像を出すことによって、果たしてどんな影響があるだろうか、と葛藤していた。気持ちが崩れてしまって、もう撮影をやめようかと思ったこともあった。


「そんな時、『わくわくサンゴ石垣島/エコツアーふくみみ』の大堀則子さんにお話を聞いていただく機会があったんです。ボロボロ泣きながら、どうしたらいいのかわからないですって胸の内を聞いていただきました。するとご自身の経験をお話してくださる中で、こう仰ったんです。

『南條さん、サンゴが白化していく状況はもちろん悲しいけれども、それをまともに自分の中に入れてしまうと捉えきれなくなってしまいます。自然というのは変化しないものはないので、もう少し俯瞰して、客観的に見ないとだめですよ』と。」


その言葉が腑に落ちた。白化している悲惨な状況だけを発信してしまうのはやはりよくないと思った。サンゴがどうやって生きていて、どうやって自分たちで再生をしていくのか。長期的なテーマになると思ったが、撮影を継続していくことを決意した。


©AKIRA NANJO


2022年8月から10月頃、大規模白化のニュースは全国に報道されていたが、その後あっという間に報道されなくなった。南條さんは、今年1月に東京を訪れたそうだが、遠い南の海で起きている異変になど、誰も関心を寄せていないことを実感したという。一時のセンセーショナルなニュースはあっという間に風化してしまうからこそ、異変が起きていることも含めて、南條さんは変化し続ける生命のさまざまな姿を伝えようとしている。


「ぬるま湯」の夏が過ぎて

台風が来なかった2022年の夏は、水深が浅いところでは水温が最高で37度 ※4 の場所もあったという。ぬるま湯に浸かっているようなあたたかい海水。撮影していてものぼせてしまうくらいだった。9月にやっと台風が来て、水面では水温が4度下がった。その後、真っ白だったサンゴが茶色くなった。といっても元気になったのではなく、表面に藻が生えて、生命活動が止まってしまった状態だった。


©AKIRA NANJO


「水中が、今まで見たことのないような異様な色でした。光が藻に反射して緑っぽいような色でした。つい先日まで真っ白だったサンゴの水中が、今度は別世界にいるような感覚を覚えました。藻類が繁茂(はんも)していく水中であってもサンゴには存在感が漂い私はまた複雑な感情を抱きました。その1か月後ぐらいにはサンゴが崩れ始めました。10月頃はまだ生き残っているサンゴがいましたが、やはり一度バランスが崩れてしまうと元には戻りませんでした」


サンゴが終末を迎えるときの、骨格が露になってシャープになっている姿には、ドキッとしたと振り返る。藻類に覆われたサンゴは、ブダイなどの魚にかじられて、だんだんと丸みを帯びていく。そして、カイメンやバクテリアがサンゴに入り込んで真っ黒になっていく。



※4 南條さんのダイブコンピューターが示していた数値。信頼できるデータかどうかわからないので、南條さん自身は当初「ぬるま湯」と表現していた。「11月のサンゴ礁学会で、JAXAの開発員の水上陽誠さんが、衛星から観測した昨夏の石垣島周辺の海水表面温度のサーモグラフィを公表されていました。私はそのデータを見るや否や真っ先にお話しをさせていただきました。今回写真展にも特別にそのデータを展示させてもらいましたが、もっと広域な次元で捉えて行かなければと気付かされた宇宙(そら)からの視点でした。」


©AKIRA NANJO


年末に近づく頃には、荒廃が進むサンゴに「果たしてこの場所にサンゴが再生するのだろうか?」と不安を感じる一方で、役割を変えながら黒くなって崩れゆく姿に、私はまるで友人にでも会いにいくかのような感情になり、年の瀬の挨拶をと、不思議と声をかけていた。


水深8mより下のところでは、サンゴが生き残っているところも多かった。2023年5月10日、サンゴの産卵を撮影した。部分的に白化してしまったサンゴも産卵していた。前年に比べると、バンドルの色は白っぽく、数も少ないと感じたものの、傷跡を補うかのようにサンゴが育ち、回復して新しい命を繋げていた。


2023年5月、稚サンゴを撮影することができた。直径2cmもない小さな小さな赤ちゃんサンゴが、しっかりと生命を継承していた。


©AKIRA NANJO


稚サンゴの写真の横には、理学博士 故大島廣先生が撮影された90年前の石垣島の写真(八重山博物館所蔵)が展示されていた。そこには、引き潮で姿を現した無数のサンゴが写っていた。豊かなサンゴが石垣の海に広がっていた。


「当時きっと、生活排水の整備などはできていなかったと思うのですが、海との暮らしがあって、バランスが取れていたんですよね。今こそ、次の世代のために、動いていかなければならないときだと思います。私は、これからもサンゴを撮り続けたいと思います」


優しい口調の中に、確固たる決意を滲ませる南條さん。海の中で何が起きているのかを私たちが知ることから、一人ひとりの行動が少しずつ変わるかもしれない。さぁ生きよう、と輝くあの稚サンゴのことを想うとき、私たちはどんな決断ができるだろう。次の世代のために、南條さんは写真を通して生命の景色を伝え続ける。




<展覧会情報>

オンライン写真展「サンゴ万年の願い 〜生命の継承〜」は2023年9月4日まで公開中!


「サンゴ万年の願い 生命百景色 南條 明 写真展」巡回展


東京 ピクトリコ ショップ&ギャラリー

   2023/ 8/ 29 (火) - 9/ 3(日) 入場無料 

   11:00~18:00(日曜日のみ17:00まで)

   ※ギャラリートーク 2023年9月2日(土)14:00より開催


   〒130-0015 東京都 墨田区 横網1-2-16 東誠ビル5F


京都  AMS写真館 ギャラリー1

    2023/ 9/ 15 (金) - 9/ 20(水) 入場無料 

    10:00~17:00(最終日16:00まで)

※ギャラリートーク2023年9月17日(日)14:00より開催


   〒604ー8425 京都市中京区御前通り御池上ル A’BOX


取材後記

「すみません、話し出すと止まらないんです」と仰る南條さん、終始優しい表情で、穏やかな口調で話してくださったのですが、伝わってくるのは生命を尊ぶ想いと、撮影への揺るがぬ決意。私も、あの白化の時のやり場がないような気持ちを思い出し、涙なしには取材できませんでした。私自身、あまりにも無力ではあるけれど、自分にもなにかできないか、という思いで石垣島に移住したことをあらためて思い出しました。南條さんのライフワークとなったサンゴの撮影。南條さんの写真を見て、美しい海の中で生命が変化を繰り返しながら息づいていることを知れば、海に対する気持ちが少し変わってきませんか?写真の力で、これからも生命の景色を世界に発信していかれることを、心から応援しています。展覧会は東京・京都に巡回が決まったそうなので、石垣で見逃してしまった方や、お近くの方はぜひ!(9/4まで公開中のオンライン展覧会もぜひ!)



Writer Asumi


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