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300年の島の伝統を受け継く、月の満ち欠けににあわせた塩作りと、それが生んだ「サンゴと森の環境バランスプログラム」〜「石垣の塩」〜

石垣島の西側、名蔵湾に面した「石垣の塩」の工房。原料は海水のみで、「何も足さない×加えない」「人と自然にやさしく」をコンセプトに塩作りが行われています。美味しい塩を作るには綺麗で豊かな海があることが大前提。石垣の塩は海に対する感謝を忘れず、日々自然に寄り添った塩作りをしています。今回はそんな石垣の塩の代表、東郷得秀さん(以下、通称とくさん)にお話を伺いました。



自然に寄り添い、継続できる塩作りを目指す

石垣の塩工房の裏には名蔵湾が広がり、海水を汲みあげる取水パイプがサンゴの邪魔にならないように、居場所を避けてひかれている。無添加の塩作りは、海水を汲みあげることから始まるのだ。八重山諸島の塩づくり発祥の地、石垣島の名蔵湾では約300年以上前から月の満ち欠けとともに塩作りが行われていて、それは現在も変わっていない。月齢に合わせて、昔ながらの製法を受け継いでいる。現在も満月・上弦下限・新月の海水から、三日以上の製造過程を経て、塩が生まれてくる。自然の恵みをそのままに、無添加の塩を作り上げるには時間も手間もかかる。

いくら機械化しても、海水に僅かに混じる海藻類を機械は選別できず、結局最後に頼みになるのは人の手だという。しかしながら島で塩作りを続けるには人の手だけでは続かない。時間をかけて美味しい塩を作っても、続けていかないと意味がない。そこで石垣の塩では、現代の技術を上手く取り入れながら、継続できる設計を作り上げてきた。

とくさんは「生産性はない」と笑いながら話すが、そこには良いものを作っているという自信がしっかりと感じられた。


工房の裏には名蔵湾が広がり、ここから海水が汲み上げられる

豊かな海と森が美味しい塩を作り出す

塩作りには、海水の綺麗さや豊かさが重要になってくる。石垣の塩では、定期的に海の中のサンゴがイキイキしているか定期的に潜って確認している。中学生の頃から海に潜り続けてきたとくさんは「サンゴは長い年月をかけて増えたり減ったりしているが、昔と今とでは海水温度の上昇などを含め、人の及ぼす影響がやはり大きいと感じる」と話す。

また、綺麗で豊かな海、元気なサンゴを後世に残すため、石垣の塩は海だけでなく森の重要さに着目している。長年にわたり各地の海に潜り、サンゴが元気なところは森も生き生きしていることに気づいたというとくさんは、なぜサンゴのために森が必要なのかを教えてくれた。

雲が山に雨を降らす→山が水を含んだスポンジとなって地表から水を沸かせる→それが集まって最後名蔵大川となり、海に流れ込む。森の冷えた水は、上昇した海水を下げる役割を果たすためサンゴにとっても嬉しい。サンゴにとって森は重要な役割を果たすのだ。

しかしながら、ここ最近は森林伐採や開拓が進み、森の数が減ってきている。石垣の塩は、豊かな森を守るために独自の「サンゴと森の環境バランスプログラム」を立ち上げ、売り上げの一部で森や畑を買う取り組みを行なっている。ただ畑を買い取るだけではなく、農薬が残った荒地の畑を買い取ることで、これ以上農薬が海に流れ込むのを防ぐこともできる。塩屋は森と海の間にあり、森が荒らされているとそれが海に流れこむため、森の様子がすぐに分かるという。海も山も見える位置にある塩屋だからこそ分かる繋がりだ。

だからこそ、どんどん森が少なくなっていく危機感から守りたい一心で畑を買い取り、買い取った土地は同じ想いが共感できる人と使っていきたいという。できることから着実に取り組む、石垣の塩の熱い想いを知ることができた。



工房の敷地内には海水が入った壺が多く並ぶ

人も自然も循環している

「食べたもので体が作られ、次の世代へと繋がっていく。子ども達が良いお塩を食べて成長して行く。自然だけでなく、人も循環していて繋がっていると思う」と、とくさんは話す。

石垣の塩は「繋がり」を特に大事にしている。

石垣の塩の製法や取り組みを聞くと、環境にすごく配慮しているように思えるが、とくさん曰く「当たり前のことをしているだけ」だと言う。昔の人の暮らしは日々自然とともにあり、そこには自然と共存という概念すらなかった。「今は自然と人間が線引きされているように感じる」と、とくさんは語る。

塩作りを辿ると人々が当たり前のように自然の中で生きてきたことが分かる。自然の中の1つの生物として、自然の摂理に従って、これからも当たり前のことを当たり前に続けていくこと。綺麗な海や元気なサンゴを含め、石垣島の素敵な環境が続いて欲しいという想いで、石垣の塩の職人達は今日も美味しいお塩を作っている。


9時半〜14時頃まで塩作りの作業風景を覗くことができる

持続性を考えて、豊かな自然を後世に

塩のこと、環境のことを熱く語ってくれたとくさんのルーツが気になり、どういう経緯で塩作りまで至ったのか尋ねてみた。

島育ちのとくさんは、中学生の時にスキューバダイビングをしたことがきっかけで海の世界にのめり込んでいったという。周りは本土の人ばかりで、「何でこの人達は毎年のように石垣島に訪れるのだろう」という疑問が出てきた。当時、ダイビング雑誌が3誌ありで毎月のように沖縄・八重山諸島の離島や石垣島が必ず特集されていて、それを目の当たりにすることで「自分たちの島ってすごいんだ」と各地から人が集まって来るような魅力的な島に住んでいることに気付かされたという。

とくさんは、これまで沖縄の離島を含め、世界の海や山を見てきた。バックパッカーでバリ、ネパール・チベット・タイ・ハワイ等各地を旅した際に常に「何でここに人が集まるのだろう」ということを感じ考えていたという。そこには自然だけでなくカルチャーも含め、どこか人を魅了するものが感じられた。それと同じく八重山諸島・石垣島には自然崇拝型カルチャーも存在し人々を魅了する信仰文化もあるが、現在は島カルチャーの土台ともいえる自然環境が薄れていっているように感じられる。森が減り・星が見えなくなり・サンゴも元気がなく豊かな自然にあやかって今に伝わる島のエネルギーがもぎ取られている気がする。人々を魅了する文化を残していくためにも自然との共存「島」ならではの持続性を考えていかないといけない。

外を見て感じることで、島の良さも分かる。反対に足りないところも見えてくる。

この豊かな自然や文化を後世に残していくための第一歩として、経済、暮らし、環境など石垣島と同じ境遇の離島や自然と文化の融合しているエリアに行って見てほしい。

世界各地の海や山を見てきたからこそ分かる視点で、とくさんは大事なことを教えてくれた。


石垣の塩、海、山、環境のこと、たくさんのことを教えてくれた石垣の塩の代表、東郷得秀さん(通称とくさん)

編集後記

以前にも一度石垣の塩を訪れたことがあり、そこで初めて石垣の塩作りには海や山、月の島と言われる八重山の文化、一口に塩といっても様々なことが関係していてとても奥が深いことに驚きました。何より興味深かったのは、石垣の塩は季節によって、塩の味が変わるということ。春夏秋冬、自然が変化するように、そこから作られる塩の味が変化するのは当たり前のことだといいます。

現代社会において、商品の味は均一。スーパーで買う塩は一年中同じ味で、他の商品も季節によって味が変わるなんてことはほぼないですが、それを考えるといかに石垣の塩が自然に忠実に、自然に寄り添って作られているかを感じることができました。

今回は塩作りについてはもちろん、石垣島の豊かな自然を残していくために環境問題や今後どうしていった方がいいかなど、とくさんの熱い想いを聞くことができ、これからどうしていくべきなのか私自身も考える時間になりました。

塩の奥深さを知った上で、石垣の塩を食べると石垣島の綺麗な海、豊かな山の恵み、それを作る人達の熱い想いが思い出されます。



石垣の塩 

〒907-0024 沖縄県石垣市新川1145-57 ☎︎0980-83-8711

営業時間:月曜日〜日曜日 9:00~18:00


Writer Megumi


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