今、石垣で注目されている若手の生産者は?と尋ねると宇根さんの名前を挙げる島の人は多いだろう。
最近は全国のトレンドを引っ張る雑誌などからも取材されているので、記事を目にしたこともある方も多いかもしれない。
宇根さんは冷凍技術を使い島のフルーツを冷凍し販売するkoppari(コッパリ)を立ち上げています。その冷凍フルーツを使ったフレッシュで美味しいスムージーを販売する店舗も島で大人気のお店となっています。
今回は話題の島の産業青年koppari(コッパリ)店主の宇根さんを取材させていただきました。
<最近取材を受けることが多いと思いますがその方々は宇根さんに何を期待し取材にきているのでしょうか。>
そうですね。みなさんどちらかと言うとSDGsをテーマに来ることが多いですね。最近はSDGsの項目にもあるフードロスなども注目されていますし、僕のやっていることはそれにつながる。そこを聞きたいという取材の方は多いです。
しかし、僕自身はそこに特化しているというわけではありません。どちらかと言うと大学で習った農業の6次産業化をしたい。と考えています。それをすることにより、商品の無駄をなくしその価値を出していく。という考えが一番にあります。
農業の6次産業化を可能にすることで、より収益性の高いものを生み出し、きちっとお金にしていく事ができると考えています。それってとても大事なことだと思います。
島ではずっと農業をしている方々はたくさんいますが、1次産業(農業や水産業の従事者)の方々が多いのが現状です。
農業は1次産業。農業一本で食えているひともいます。(6次化する必要がない)
農業の6次産業化に成功している例も島にはあります。その代表としてはミルミル(いもり牧場)がありますが、6次産業化は非常にむすかしく経営資源の確保が難しいのも特徴です。
僕としては島で1次産業のプロフェッショナルは多いが、2次3次には伸び代があると感じ参入したという形です。
農業の1次産業に従事されている方には頭が上がらない。なぜなら1次産業あっての6次産業化なので僕はそこを丁寧に考え行動していきたいです。
その思いを持ちながら、2次産業3時次産業を成り立たせることをしたい。
そこは知識がありますし自分に向いていると思っています。
そして『誰もやらないから僕がやろう。』という楽しむ気持ちで始めています。
☆ここで産業の分類についてちょこっと解説☆
1次産業とは
第1次産業は、農業・林業・水産業など、自然から資源を採取する産業のことを指す。
2次産業とは
2次産業とは、1次産業が自然から採取した資源を加工・生産すること。鉱工業や製造業、建設業などが属しており、それらに従事する工場労働者の多くが青い作業服を着ていたことから、ブルーカラーとも呼ばれる。
3次産業
第3次産業は、流通・販売など目に見えないサービスや情報の生産を行う産業。金融、保険、卸売り、小売、サービス業、情報通信業などが属する。第3次産業の労働者はシャツとスーツを着用しているため、ブルーカラーに対してホワイトカラーと呼ばれている。
6次産業とは
1次から3次までの各産業の一体化を図ること。「6」という数字は、「1次産業×2次産業×3次産業」というかけ算が由来になっている。農林漁業者が、採取した生産物を自ら加工し、販売まで手がけることで、豊かな資源にさらなる付加価値を生み出していこうという取り組みである。
どちらかというと僕のやりたい第2次産業と第3次産業の部分は島の農家さんが苦手と感じる部分だと思っています。
島の産業を持続可能なものにしたい。その思いがあるからです。
僕が2次、3次産業の加工や冷凍を担うことで島の産業がこれからも良い形で続いていくのではないか。それは僕の視点からはっきりと見えたことです。
さらに農業の6次産業化を進めていく。
農業の6次産業化というのは『1次から3次までの各産業の一体化を図ること。』をいいます。
それができると僕の理想とする島の農業をこれからも続けていける。それが僕の言う持続可能にあたります。
<実際koppari(コッパリ)をやってみてどうでしたか?課題など感じたことはありましたか。>
大学で習ってきたことと起業してからの現実は結構違いました。
ありがたいことに農業生産者=いいことしている人。と捉えられたり、食料生産を担っている人。ありがとう!と良きイメージに思われたりすることも多いのですが、一方で地球を壊し開墾し、環境にも影響力がある。と言われればそうでもあります。
それは僕自身感じていますし事実そういう捉え方をされるとそこは否定できません。
僕は生産者です。だからそこは否定しない。
しかし、その仕事をしている者として、そこから生まれたものや出来たもの。それを生産物といいますが、生産物を全部使いたい。無駄にしたくないと思っている。
全部使うを可能にするために学生時代にインターンをした会社から学ばせてもらった冷凍技術を使うと出荷時期をスライドさせられる。と思いました。
出荷や提供する時期をずらすことで、生産できない時期にも市場に出せ、それを価値にすることができる。
農業生産物で例えるならばたくさん取れる時に冷凍し、とれないときに出す。そうすることで最大価値を出せる。
多く生産されてしまい廃棄されている生産物もあります。いわゆる豊作貧乏と言われたりする農家の問題を冷凍技術を活かすことで価値にできるのならば冷凍技術をどんどん活用していこうと思ったのです。
農家や生産者がそれをちゃんと収入にしていく手段とする。
ビジネスとして的確に捉えそこを活用していく事を考えています。
本来は誰がやってもいいのですが今は島で誰もやってないから僕がやってみる。
生産物全部を使う。
市場ではその生産物がない時期に出して価値を出す。
このシンプルな考えだけなのです。
ここで僕が大事だと感じているのはこれをボランティアにしないことです。
ボランティアは続かない。ちゃんと利益を出すことで持続可能にしていく事ができる。
出されたものを無駄にしたくない!という思いで行動していますが、余ったものを誰かに売ったり買ってもらったりする。そこにしっかりと利益を出していくことで生産を続けられる。
なので続けていけるその『システムを作る事』をしたい。そこのツールとしてビジネスを利用していくことを考えています。
持続可能にするためにビジネスがある。
ビジネスをツールとして活用する。を考えた時に僕が持っている技術はたまたま冷凍技術だった。
冷凍技術によってそれができる。だからやってみる。ということに過ぎないのです。
<宇根くんにとってそこに使命感はありますか?>
僕は6次産業の仕組みを作ることに生きがいや使命感がある。
仕組みがあれば今後の産業が持続可能であることを達成できるし、生産物を全部使うことが出来、なおかつ価値を生み出せる。
そのために動く。
そして、それを僕だけのものにするのではなく良いシステムを作ればみんなが使ってくれるといいと思うし、どんどんもっと良いものに変化していくとさらにいいと思います。
そこに自分のもの。という執着はほとんどないですね。
みんながそれを使い、活用してくれることで僕はまた別の面白そうなことをやりたい!って思うので楽しみしかないです。
<今後の目標やビジョンについて〜島のために〜という思いはありますか?>
島のために。というよりも僕が一番やりたいことは
『牛とともに生きる。』をしたい。
あともう一つ
『潮の満ち引きとともに生活したい。』
生活リズムをそれにあわせて生きるということですね。
究極それが幸せだと思っています(^^)
今は牛が待っているから朝起きている。
そこにある生活が好きで、ずっとそれをしたい。
そのためにいろいろな工夫をしています。
牛に起こされ牛に飼われている。という感覚なんですね。
牛を放牧して牛たちが喜ぶ環境や、草を食べて生きられるといいな。と考えたりしている。
飼料に頼らずに放牧できるといいですよね。
牛を放牧してると牛が楽しそうなんですよ!
それをずーっと見ていたい。
現在、農場には牛が20頭弱はいるので僕は牛飼いでもありますし、生産者でもありますが良き環境で牧草をしっかりと食べて牛も幸せにしてると自分も嬉しいし、今はそういう牛に価値が出てきている。
実際に市場ではそういう牛を『グラスフェッド牛』(※注釈1)と呼ばれています。
放牧によって牛の本来の能力が発揮され、いきいきしている状態。草のみで牛の身体に無理のない飼い方で育つことにより結果的に牛の価値も高くなり、美味しいといわれ、ビジネスチャンスとなること。
それは決して悪いことではないと思っている。
環境にもいいのではないか。ということにもつながるかもしれませんね!わかんないですけれど。
僕はいつもあまり気負いなく『やってみよう!』という気持ちのみ。それを楽しんでいます。
<今後の楽しみは何ですか>
今後はいとこの子どもや島の子どもたちに牧場に来てもらいたい。生活の中にその体験が当たり前にあるといいな。と思います。自分が当たり前に育った自然環境を感じてほしい。
最近はイノシシもよく出るので狩猟免許を取りました。イノシシ肉も販売してみようかな。と言う感じで何でも今の牧場の状態や出来事に合わせて必要なことを足していく感じです。
やりたいことをやりたいように
自分の頑張れることをやる。
無理なく心地よい暮らしをやっていく。
それが持続可能であるために工夫する。
ビジネスで解決していくことがあれば、それをツールとして取り入れていく。
続いていく。をどう考えるか。そこを軸にして無理なく使えるものは使うだけです。
<数ヶ月前にANAのホテルのプランではるさーツアーを提案したと聞きました>
はい。今で言うサステナブルツアーのような発想が形になりました。
八重山は観光産業は大きな収入源となっています。その観光の中で畑に来てもらうツアーがあってもいいのでは。と思っていました。
農地の収穫量はその土地の分しかありません。大体決まっていて生産物は急に何倍にもなったりはしません。
しかし、そこには無形の商材がある。
そこにしかないくさや土の匂いだったり、作業風景や土に触れたり牛に触れたりその仕事を学んだり。農業の価値は収穫量や生産量だけではない。そこには無形の独自の価値があると思っています。
現在、生産技術の向上、販売や流通の進化していますが、時代が進めば進むほど農業の体験をすることが希少価値となる。
さらに赤土を防止し石垣島の海を守るためのグリーンベルトの植樹などを体験してもらい手伝ってもらえたら、その価値も島の環境を良くするということを観光の中でも見える化されていくのだと考えています。
現在、ANAインターコンチネンタルホテル石垣島では「はるさーツアープラン」が動き出しています。
はるさーツアー
開催場所:畑里(はるさと) 真栄里1111-230
開催時間:9:00~
所要時間:60分 月桃(げっとう)のハーブティ作り
はるさー:「畑人」と書き、石垣の方言で農家を意味します。
月桃:ショウガ科の植物。ストレスをやわらげ、心を穏やかに保つリラックス効果があるといわれています。
強烈な台風が毎夏やってくる石垣島では、雨の影響で農地の赤土が海に流れ込み、珊瑚が破壊されるという深刻な問題を抱えています。
石垣島の大切な資源を守るための“グリーンベルト”(月桃や糸芭蕉などを農地に植え、根っこの力で赤土の流出を抑える)。グリーンベルト植物を原料とする商品を販売している農家を訪れ月桃を使ったハーブティーづくりを体験します。
さらに今後は地元の観光業者の方とサステナブルツアーに島産業を取り入れてもらおうと話を進めています。
僕は楽しんで自分ができることと、やってみよう!を生活の中でいろんな道具やビジネスツールなどを活用し、僕が定義する持続可能で豊かな生活を整えたい。
そう思っています。
取材後記:
『誰もやらないから自分がやってみる』
宇根さんは輝く目をしながら、終始楽しそうに話してくれました。
暮らしの真ん中に心地よい。を持続可能にしてくシンプルで気負いない発想に島の未来の豊かさを想像しました。
それはまるで
利益の追求ではなく人々の問題を解決することを目的とした「ソーシャル・ビジネス」を生み出したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏を連想させるようなエネルギーを茶目っ気のある笑顔の宇根さんから感じました。
SDGsという言葉にしなくても一人ひとりの幸せの真ん中にその種はあるのではないか。社会問題や環境問題にも丁寧にフォーカスしながらもそれと並行し、すべての人の心にあるその素敵な種にお互い寄り添いながら、それぞれの花を咲かせていく未来になるといいな。と思います。宇根さんどうもありがとうございます!
レポート:カンナ
koppari(コッパリ)
ネットショップ:https://koppari.net/
【SIIからワンポイント解説❣】
※注釈1
『グラスフェッド牛』について
牛が放牧されて草を食べるといきいき健康な牛に育つ、ということもありますが、多くの肉牛飼育では輸入されたとうもろこしなど穀物ベースの人工配合飼料を使うので、牛肉1キロに6~10キロのもの穀物が必要となっています。現在、世界の食肉生産を賄うため穀物生産の3分の1が使われ、また膨大な水が穀物生産に必要で、穀物輸入に頼る肉牛育成は水不足を引き起こして、このままでは2050年には世界の7割の地域で地下水の枯渇が起きると言われている。
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