八重山の植物を原料にした化粧品作りに取り組む製造販売会社サンシャトゥー。社長の今村祥(いまむらあきら)さんに、その原点と想いを伺った。
医療としてのアロマとの出会い
1995年、石垣島で立ち上げた化粧品製造販売会社、サンシャトゥー。
もともと化粧品会社に勤めていた今村社長だが、化粧品には広告で言っているような効果効能はないと断言する。
「シミが治るとか、嘘八百並べて商品を売るのが嫌になった。サラリーマンだから我慢しないといけないけど、我慢ができなくなった」。
今でこそ薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が厳しくなって、科学的・医学的根拠がないことを謳うことは禁止されているが、当時はどのメーカーも同様だったという。営業、管理職、製造もやったが、化粧品はもう嫌だと思い約18年間勤めた会社を辞めた。
「それで、プー太郎やっているときにアロマに出会って」
当時の日本で、アロマはまだ一般的ではなかったが、とある大学教授から「アロマは今後人の役に立つ」と聞いて勉強したという。
専門的に勉強したくて、オーストラリアの病院にも行った。アロマが医療にどう関わっていくのか。病状を聞いて、複数の精油を混ぜて処方する。漢方薬の処方を思い浮かべるとイメージが湧きやすい。ただし、アロマの場合はあくまで香りの処方だ。鼻から入ることによって脳に直接作用するので、自律神経を整えることができる。何らかの身体的障害を持っている人や、精神的に問題を抱えている人が使用することによって、薬ではなく、香りで症状を改善させる。
当初は、アロマを世に広めるための講師業を中心に行っていた。大阪で最初に立ち上げた株式会社ミュゼは、アロマテラピーの講座を開催し、アロマのノウハウを教えること、セラピストを育てることを目的としている。
大阪で会社をやっていた頃、世界保健機関(WHO)のセミナーを聴く機会があった。そこで言われていたのは、日本は世界一の長寿国で、沖縄はその中でもトップだということだった。これを聞いて一度沖縄に行かなければと思い、本島に行った。すると想像したよりも都会だったと振り返る。
「じゃあ離島だ、と思って石垣に行ったら、あまりにきれいな海に感動した。ここで絶対に仕事をしたいと思って、次の日にはもう手続きしてたね」
アロマの原点は植物
石垣に来た当初は、山や湿地をひたすら歩いて植物を探したという。
「自分で見ないと納得できなかった。新しいハーブを見つけたくて、米原の方の山にいつも登っていたよ。どれがハーブなのかさえわからないけどやってみたくて、いつも2L入りのペットボトルを3本担いで、2日に1回ぐらい道なき道を登っていた」
だけど、本の写真を見ても、実際に山に生えている植物は風で揺れていたりしてどれが何なのかわからない。
「自分は脳無しだなということに気付いた。ただハーブが好き、植物やアロマが好き。絶対勉強するぞと思ったけど、勉強するための基本的な土台となる知識がないことに気が付いた」
そう語る今村社長だが、植物への想いは人一倍だ。アロマは植物の犠牲の上に成り立っている、という考えのもと、2007年ごろから、商工会の人と一緒にカーボンニュートラルにも取り組んでいたという。植物を伐採したら、その分植物を植える。フクギは光合成をよくするので、フクギを選んだ。植栽のために、内地からジェット機に乗ってきた人たちに寄付をしてもらっていたのだそうだ。
とにかく人の役に立ちたい
今村社長は、NPO法人海・空・太陽の理事長でもある。もっと人の役に立つような事業をやっていきたいと考えて、障がい者との関わりを模索したが、株式会社という枠組みでは、自分たちの名誉のためじゃないかなどと言われ、誤解されることが多かった。それでNPO法人をつくって、障がいをもつ人の新しい仕事として、アロマセラピストを育成するなどの活動を始めた。また、高齢者の人が寝たきりにならないための予防として、寝たきりの人に対しては症状を悪化させないためのケアとして、福祉の分野でアロマテラピーを活用した。
アロマは気持ちがいいだけではなく、人間の心やからだのケアもできるということを証明したかった。嘘が嫌だから、絶対にエビデンスにこだわる。国立病院で200人以上の患者さんを対象にして、症状の変化や血液のデータを取った。
データを取ったことで効果があることを確信したが、薬もそうであるように、100%誰にでも効くわけではなかった。アロマでよくならなくても、音楽でよくなったという人もいる。
「たとえば、不眠症にはラベンダーがいいと言われても、ラベンダーが嫌いな人もいる。ある固有名詞について、それが絶対的にいいということはまずない。五感は、音楽、香り、映画などいろんなものが入ってくる。人によって、必要なものが違うよ」
こうして実際に福祉の現場でアロマを活用し始めた今村社長だったが、当時、アロマオイルなどは99.9%輸入されていたという。日本で生産できるようになったら新しい産業が生まれると考えたのが、精油などの商品を製造するサンシャトゥーの原点だ。
月桃とグリーンベルト
全国を回って、最初に作ったのが愛媛の伊予柑の精油だった。ここで様々な原料から精油が作れることを体験したことが、石垣島での月桃オイルの生産につながっていく。
月桃は、八重山では昔から親しまれてきた植物で、防腐剤・防虫剤として活用されたり、心の鎮静作用を持つお茶として飲まれたりしてきた。
月桃を役立てる方法が他にないか探していたところ、とある大学の講義で、海が汚れていく、サンゴが死んでいく原因の一つに赤土があることを知った。赤土流出防止のためのグリーンベルトとして月桃を活用できないかと考え、東京にある大学の教授のところにデータを持って行ったところ、いいかもしれないと言われた。
当時、農家の人の中には、赤土流出防止のためにすでに月桃を植えている人もいた。土は農家にとって命であり、大雨のたびに流れてしまうことは損害だった。とはいえ月桃を栽培しても利益にならないし、月桃を植えた部分にはキビが植えられないから作付面積が減ってしまう。こうした状況で月桃を植えないかと農家に声をかけても、100人中100人だめだった。
そこで、月桃を刈り取ってもらって買い上げ、月桃水と精油を抽出して、化粧品の製造を始めた。月桃を育てる際、手間はほとんどかからないという。しかも、キビは植えてからお金になるまで18か月かかるが、月桃は年に2回お金になる。きちんと利益になる仕組みをつくることで、複数の農家に協力してもらうことができた。
画像真ん中に見えるのが、キビ畑の外周に植えて3~4か月ほど経った月桃。1年ほどで、下の画像のように成長する
継続してこそ意味がある
とはいえ、月桃をお金にしようと思ったのが始まりではなく、サンゴや海を守りたいという気持ちが始まりだった。だから、農家さんに月桃を植えてもらうときには、考えに共感してもらえるかどうか、必ず面談の機会を設けている。想いを重視する一方で、いくらいいことをやっても利益にならないと続かない、と今村社長は断言する。
SDGsという言葉も、消費者の目を向かせるためのひとつのマーケティング手段でしかない。人びとの目が向かなくなったら使うのをやめてしまう、一時的なキャンペーンみたいになっている。
「地元の人がきちんと考えてやっていけるようにならないといけない。だけど地元の人からしたら、そんなことやってる暇はないと思われるかもしれないから、いつのまにか参加できるような仕組みを作っていく必要がある」
だから、植物を通じて商品を作り、誰かがそれで一緒に儲かるような仕組みを作ることを続けている。無駄になって捨てるよりもそれがお金になれば、生産者が助かる。だから、原料を自社で調達せず、地元農家との連携にこだわっているのだ。
於茂登にある畑里農園さんに、月桃の蒸留をしてもらっている。自然乾燥した月桃の葉を300キロぐらい入れて蒸すと、6時間後に沸騰して蒸気が出てくる。出てきた蒸気をパイプで受け、それを水で冷却すると、月桃水と精油に分離して出てくるという仕組み。
石垣島は今、ターニングポイントに来ている
今村社長は、奈良生まれの大阪育ち。小さい頃は、近所の川でよく遊んだという。だがその川は、10年後には日本でいちばん汚い川になった。開発が原因だった。大きな工場ができ、工場排水が垂れ流された。「自然を壊すということは、結果的に人間の健康や人間経済に負担をもたらす。石垣もそうなりつつある」
海が汚れサンゴがなくなれば観光もなくなる。今、大変な時期に来ていると語る。変わるか変わらないかは行政の問題が絡んでくるが、自由経済においては、いかに金儲けをするかが重要視される。
「自然を壊そうが何しようが、カンムリワシが死のうが絶滅しようがなんでもええねん。だけど、そうはいかない。自然が破壊されたら人間の心が破壊される」
人生は夢と希望とロマンとエロと笑い
感動したものを重要視していきたいからあんまり目標は立てないという。
「人の役に立てばなんでもええねん。これと決めたら人間せせこましくなるやろ。この島の自然を守りたい、島の役に立つようなことをやりたい、みたいな漠然としたことを軸に動いていくんや。せやから働いてくれてる従業員は大変やと思うで」と笑う。
これから本格的にやっていきたいのは、テリハボク種子の活用だ。テリハボクは防風林として石垣島の様々な場所で目にするが、これらは国や市の所有であることが多く、採取して製品にすることは禁止されている。製品にできるものを探していたところ、黒島の牧場主の敷地に2000本が自生していることがわかり、買い上げることにした。種子集めから殻割り、中身の乾燥までの作業をやってもらうことで、黒島での雇用を生み出すことにもつながった。
「月桃オイルを抽出したあとのカスをもっと役立つものにできないかな、とも考えているし、フクギのオイルが化粧品の原料になるかどうかも追及していきたい。でもやっていく途中に他にも何か出てくるかもしれない」と今村社長。
目標は立てない。でも、人の役に立つ、島のためになるということを軸に進んでいく。サンシャトゥーの取り組みは、着実に島の未来につながっている。
有限会社サンシャトゥー
石垣市石垣26番地
電話 0980-84-1095
取材後記
「人生は夢と希望とロマンとエロと笑い。はい、どうぞ」とインタビュー中に笑わせてくれる粋な今村社長、すっかりファンになりました。
自然が破壊されたら人間の心も破壊される、という言葉は、まさに核心を突いています。私たちは心の生きものであり、自然を守ることは、もちろん資源を守る、生活を守ること、そして私たちが豊かな心で生きる礎。社会起業家のパイオニアとも言える今村社長に出会えたことに、心から感謝の思いです。
Writer: Asumi
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